先日、「National Geographic」だったか「Discovery」だったか忘れたけど、とにかくドキュメンタリー系のチャンネルをぼけーっと観ていた時の事なんだけど、恐竜の「性的ディスプレイ」について語られていた。

ザックリとあらましを書くとこうだ。

恐竜の化石などに見られる特徴的なツノや、背中に並ぶヒレのような突起物などの骨密度等を調べると、これまで考えられていたような「武器や防具」としての使い方には適さず、寧ろ「性的なディスプレイ」に使っていたのではないか。恐竜の子孫と考えられる鳥類もまた性的ディスプレイの多様さを誇る事からも、そのような考えが補強できるのではないか。

sex_disp

と、まぁこんな感じ。

「ふーん、なるほど」と思って観てたんだけど、お茶を飲みながらふと思った。

「常に変異はどこかで起こっていて、適者が生存するようになっているという考えの延長で考えるなら、『変な突起』が最初に出てくる個体がいたはずだ。出てきた『変な突起』は恐らく最初は小さなものだった筈だけれども、同じ種の他の個体には無いわけだから、周囲から奇異に思われたのではないか。つまりモテなかったのではないか」

変異と進化はさておき、モテなかったらそれは大変だ。仮に『変な突起』を持つ個体がその時に適者であったとしても、モテなかったら子孫が残せない。大変だ。非モテの一員として他人事じゃないぞ。

でも種の全ての個体に『変な突起』がついているなら、「『変な突起』第一号」はモテた(遺伝子をばら撒けた)筈だよね。
という事は、そもそも「『変な突起』第一号」が現れる以前から、交尾の相手候補が「あら素敵な突起」と思う素地が無ければならない筈だと思う。
そう言う事になるよね。

しかしながら、人間で考えてみるとちょっと混乱する。
『変な突起』が額についている異性が自分の目の前に突如現れたとして、もしその人が「とても気立てが良い」人だったとしよう。
それでも『変な突起』がついてるし、やっぱちょっと引く、っていうかきっとモテないよね。
良くてデートで終わっちゃって子孫残そうとあんまり思わないんじゃないか。

例えばこんな(人体改造でググるともっとすごいのでてくる。これはかわいいやつ)。
in

でもそれじゃぁ進化しないじゃん。
あまりにもバラエティに富んだ恐竜たちの『変な突起』の説明がつかないじゃん!
どうすんのよぉ。結局非モテは救われないのー?

ってなわけで、あるアカデミックな場所へ質問メール突撃。
「こんな素人が急にメールで質問しても、学生のレポート採点したりしてそうな時期だし忙しいだろうから、きっと返事来ないよな」
とダメ元で質問したら、それを読んでくれたある親切な先生が丁寧で解りやすい回答をくれました。ありがとうございます。
しかも質問した翌日でした。僕みたいな素人(ってかアホ)に付き合ってくれたのが嬉しくてたまりません。

 或る先生は「私はそれが専門ではないので、ご質問の内容の分野とは異なります」と断りを入れつつも、僕にでもわかりやすいようにざっくりと説明してくれました。

以下、先生の“えー、ブログのネタにするの? 専門外だから名前出しちゃうのは勘弁して”というお立場上「出来るだけ誰だかわからないように」、要点はそのままにしつつも、語尾とかに僕フィルターを掛けつつ、しかも飲み屋で話しているかのような演出を交えつつ掲載する事にする。

先生
「一般に動物の形態の中で性的ディスプレイに関係するものは、食物を得るとか、外敵から身を守るなどに有利であるように、個体の生存にとって直接適応的とは考えにくいものが多くあるんだよね。

しかしながら、よく考えると、最初は個体の生存にとって直接適応的だったものが異性に選ばれ、その度が過ぎてしまった、または環境の変化によって適応的ではなくなった、というものがほとんどだったりとか。

恐竜の角や突起も、最初は「武器や防具」であったものが、それならば大きい方がいいと異性に思われた結果、自然選択(性選択)が働き大きくなりすぎたと考えられるんじゃないかな。

人間を例にとってみれば、確かに『変な突起』が額についている異性がモテるとは思えないけど、実際、唇や女性の豊かな乳房は性的ディスプレイの結果と考えられるんじゃないかな」

中坊「“唇や女性の豊かな乳房”が実は『変な突起』そのものなのではないかって事ですか?」

先生
「“唇や女性の豊かな乳房”が実は『変な突起』そのものというのは、ちょいと誤解があるかもね。

本質は、元々は子供を産み育てる機能に直接関わるもので、全く変なものではなかったものが、いつの間にか表面的な部分のみで選択されるようになり、もはや機能との関わりが希薄になってしまったってことじゃないかな。だからまだ『変なものそのもの』とって言っちゃったら言いすぎじゃね?
恐竜のツノやヒレも最初は立派な機能があったのだと思うしね。

んで、なんだっけ。

そうそう、“唇や女性の豊かな乳房”もどちらも霊長類の中ではヒトに特徴的だけども、直接適応的とは考えにくいものじゃん。
それでも、なぜか女性の魅力を構築するのに重要な役割を担っているものっぽいよね。
機能的には(非適応的に)度を過ぎるものでもむしろ好まれる、性選択の不思議が想像できるって話じゃないか」

中坊
「でも形状的に変わったやつって奇異に思われがちなんじゃないすか・・・?」

先生
「動物には新たな形質を好む傾向もあるようだよ。
人間を例にとってみれば、ファッションなどの流行は常に今まで無かったものが好まれたりするよね。
たぶん、環境の変化に適応するためには、これまでには見られなかった『変な形質』を持つ相手を選んだ方が、結果として生き残れる場合も多々あり、そういうものを好む性質(をつかさどる遺伝子)が自然選択によって維持されているんじゃないかな。言いかえれば、保守的なものだけを好むだけでは、いつか環境に適応的でなくなり、生き残れなくなるのってもんじゃないかな。

いや、人間の例では、専門外だし極論かもしれないよ。一般的、とは言い難いかもね。
多分、デズモンド・モリスの「裸のサル」を私自身が若い頃読んだから、まぁ、この辺りの内容に基づく謂いになるのかもね。
専門の人がどう考えるかはわからないけど、こういう考え方もあるってことで」

中坊
「先生、犬は?
犬は、いろんな形してるけど、交尾しますよね。それはやっぱりフェロモンとかそういうので判断してるんですかね?それだと“ディスプレイ”は関係なくなっちゃうような気がするんですけど」

先生
「犬は嗅覚が重要で、視覚的な性的ディスプレイはほとんど関係ないんじゃないかな。
いろいろな形のものがあるのも人為選択の結果だし。全ての動物に性的ディスプレイがあるとは限らないので、ここ注意ね。
一般に配偶者選択の方法には、フェロモン、性的ディスプレイ、雄同士の闘争などの中の一つだけが決定的要因になる」

中坊
「我が家はこのうちのどれによるものなのか、少なくとも私の経済的優越≒雄同士の闘争ではないことは言えるようです」

先生
「いや、『決定的要因』って話で『決定要因』ではないとこに留意ね。実際、どれかひとつで決まるって事はないと思う。

夫婦でどちらが選んでどちらが選ばれたのかがはっきりしないように、雄同士の闘争によるのか、雌が強い雄を選んだのかの識別は、そりゃぁ容易じゃないよ」

■■

 こんな感じ。
出来るだけ語尾とか変えて書いてみたんだけど、先生はとても綺麗な日本語で丁寧に書いて送ってくださったという事を、名誉の為に付け加えておく。

■■■

 いやぁ僕、昔、学会事務の現場をチラ見してた事があるんだけど(僕は部署が違ってたけどすぐ隣でオネーサンが事務やってた)、その時に得た印象は「大学には感じ悪い先生が多いなぁ」というものだった。
だから「感じ悪くされるかも」ともチラっと思ってたんだけど、すごい丁寧で親切で迅速な回答だったので嬉しくて嬉しくて。

この場を借りて。
先生、どうもありがとうございました。とても刺激的でした。